【第1章】WP-CLI完全入門:WordPressを”コマンド”で管理する基礎(初心者〜中級)
WP-CLIとは?何ができて何が嬉しい?
WP-CLIは、WordPressをコマンドライン(ターミナル)から操作するための公式ツールです。普段、WordPressの管理画面でマウスをクリックして行っている作業を、wp ...というコマンドを入力することで実行できるようになります。「黒い画面に文字を打つ」と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、実際に使ってみると、その便利さと効率の良さに驚かれることでしょう。
WP-CLIは2011年頃から開発が始まり、現在ではWordPress公式プロジェクトの一部として認められています。世界中の開発者やサイト管理者に愛用されており、WordPress運用における事実上の標準ツールとなっています。一度覚えてしまえば、日々の運用作業が劇的に効率化されるため、初心者の方にも積極的に習得をおすすめします。
WP-CLIでできること(よく使うもの)
WP-CLIで実行できる操作は非常に多岐にわたりますが、日常的によく使うものをピックアップしてご紹介します。これらの操作は管理画面からも実行できますが、WP-CLIを使うことで圧倒的に速く、確実に実行できるようになります。
WordPress本体の更新は、wp core updateでWordPress本体を最新版に更新し、wp core update-dbでデータベースの更新を行います。管理画面で複数回クリックする必要がある作業が、たった2つのコマンドで完了します。
プラグインの管理では、wp plugin update --allで全プラグインを一括更新できます。10個、20個とプラグインがインストールされているサイトでも、このコマンド一つで全て最新版になります。個別に更新したい場合はwp plugin update プラグイン名とすれば、特定のプラグインだけを更新することも可能です。
テーマの管理も同様で、wp theme update --allで全テーマを更新できます。使用していないテーマも更新しておくことはセキュリティ上重要ですので、この一括更新機能は非常に重宝します。
ユーザー管理では、新規ユーザーの作成、権限の変更、パスワードのリセットなどをコマンドで実行できます。特にパスワードを忘れてしまった管理者のパスワードをリセットする際に、データベースを直接操作せずにWP-CLIで安全に変更できるのは大きなメリットです。
データベース操作では、wp db exportでデータベースのバックアップ(エクスポート)、wp db importでバックアップからの復元(インポート)が可能です。phpMyAdminにログインしてエクスポート設定を選んで…という手間が、コマンド一つで完了します。
URL置換のwp search-replaceは、サイト移行時に神のように頼りになるコマンドです。旧ドメインから新ドメインへの一括置換を、データベース内の全テーブルに対して安全に実行できます。手作業やSQLで行うと漏れやミスが発生しやすい作業ですが、WP-CLIなら確実です。
キャッシュ削除はwp cache flushで実行できます。オブジェクトキャッシュやページキャッシュのクリアが必要な場面で、管理画面にアクセスせずにサーバー側から直接実行できます。
Cron実行では、wp cron event run --due-nowで、実行待ちのWordPress Cronジョブを手動実行できます。「予約投稿が公開されない」といったトラブルの際に、Cronの状態確認と手動実行ができるのは心強いです。
障害対応として、--skip-pluginsや--skip-themesオプションを使うことで、問題のあるプラグインやテーマを読み込まずにWP-CLIを実行できます。管理画面が真っ白になった時でも、WP-CLI経由で原因のプラグインを無効化できる可能性があります。
なぜWP-CLIが便利なの?(初心者でも恩恵が大きい3つの理由)
WP-CLIの便利さは、実際に使ってみると実感できますが、ここでは特に初心者の方にとってメリットが大きい3つのポイントをご説明します。
1) 圧倒的に速い(クリック作業が消える)
WordPressの管理画面で作業する場合、ページの読み込みを待ち、該当のメニューを探してクリックし、また読み込みを待ち…という繰り返しになります。プラグインを10個更新するなら、「更新」→「次へ」→「また更新…」という作業を10回繰り返す必要があります。
WP-CLIなら、wp plugin update --allのたった1行で全て完了します。実行中は進捗が表示され、完了したら結果がまとめて表示されます。この差は、プラグイン数が多いサイトや、複数サイトを管理している場合に特に顕著です。1サイトあたり5分かかっていた更新作業が30秒で終わるようになれば、10サイト管理している場合は50分から5分に短縮されます。浮いた45分で他の作業ができると考えると、その効果は計り知れません。
2) 同じ手順を”再現”できる(手順書がコマンド列になる)
WordPressの運用では、「本番環境へのデプロイ手順」「定期メンテナンス手順」「障害復旧手順」など、様々な手順書を作成することがあります。しかし、文章で書かれた手順書は、実行する人によって解釈が異なったり、手順を飛ばしてしまったりすることがあります。
WP-CLIのコマンドは、そのままコピー&ペーストすれば、誰が実行しても同じ結果になります。手順書をコマンド列として記述しておけば、それ自体がシェルスクリプトとして保存でき、次回からは1コマンドで全手順が実行されます。「去年の移行作業、どうやったっけ?」と悩む必要がなくなり、過去の作業内容がそのまま資産として活用できます。
3) 管理画面に入れない時の”最後の手段”になる
WordPressサイト運用で最も困るシナリオの一つが、「管理画面にログインできない」という状況です。プラグインの致命的エラー、テーマの不具合、PHPのバージョン不適合など、原因は様々ですが、管理画面が真っ白になったり、500エラーになったりすると、GUIからは何も操作できません。
このような場面でWP-CLIは「最後の手段」として機能します。SSHでサーバーに接続し、--skip-pluginsオプションを付けてWP-CLIを実行すれば、問題のあるプラグインを読み込まずに操作できます。原因と思われるプラグインをwp plugin deactivate プラグイン名で無効化すれば、管理画面が復旧する可能性があります。この「いざという時の保険」としての価値だけでも、WP-CLIを習得しておく意義があります。
まずは超基礎:CLI/SSH/ディレクトリの考え方
WP-CLIを気持ちよく使いこなすためには、いくつかの基本概念を理解しておくと非常に楽になります。ここでは、最低限押さえておきたい3つの概念をわかりやすく解説します。これらを理解しておくことで、エラーに遭遇した際も原因の見当がつきやすくなります。
1) CLI(Command Line Interface)=ターミナルで命令する世界
CLIとは「コマンドラインインターフェース」の略で、文字(テキスト)を入力してコンピュータに命令を出す方式のことです。WindowsならPowerShellやコマンドプロンプト、MacならターミナルがCLI環境にあたります。
普段使い慣れているGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)では、マウスでアイコンをクリックして操作しますが、CLIではキーボードから文字を打ち込んで操作します。一見すると原始的で難しそうに見えますが、同じ操作の繰り返しや、複雑な条件での処理を行う場合は、CLIの方が圧倒的に効率的です。
最初は戸惑うかもしれませんが、基本的なコマンドをいくつか覚えるだけで、すぐに慣れます。特にWP-CLIは、コマンドの形式が統一されており、ヘルプも充実しているため、CLI初心者でも比較的スムーズに習得できます。
2) SSH=サーバーに入る”入口”
SSH(Secure Shell)は、ネットワーク経由で別のコンピュータに安全に接続するための仕組みです。WP-CLIは基本的にWordPressが設置されているサーバー上で実行するため、リモートサーバーに接続する手段としてSSHが必要になります。
自分のPCからレンタルサーバーにSSHで接続し、そのサーバー上でWP-CLIコマンドを実行する、というのが一般的な流れです。SSH接続には、サーバー側でSSHが有効になっていることと、接続するための認証情報(ユーザー名・パスワード、または秘密鍵)が必要です。
なお、ローカル開発環境(DockerやLocal by Flywheelなど)を使っている場合は、SSHを使わずに直接ターミナルからWP-CLIを実行できます。考え方は同じで、「WordPressがある場所」で「WP-CLIを実行する」という点が重要です。
3) ディレクトリ(場所)=”今どこでコマンドを打ってるか”が超重要
WP-CLIを使い始めた方が最も遭遇しやすいエラーがこれです。
Error: This does not seem to be a WordPress installation.このエラーの原因は、ほとんどの場合シンプルです。「今いる場所(カレントディレクトリ)がWordPressのインストールディレクトリではない」だけです。WP-CLIは、実行時にカレントディレクトリからwp-config.phpファイルを探し、それを見つけることでWordPressの設定を読み込みます。
解決方法は2つあります。まず、cd /path/to/wordpressでWordPressのディレクトリに移動してからコマンドを打つ方法。もう一つは、--path=/path/to/wordpressオプションを付けてWordPressの場所を明示的に指定する方法です。
この2つの方法を理解しておくだけで、WP-CLIで詰まることが一気に減ります。特に複数のWordPressサイトを管理している場合は、--pathオプションを習慣的に使うことで、「違うサイトに対してコマンドを実行してしまった」という事故を防げます。
WP-CLIを使う前提条件(ここで詰まりがち)
WP-CLIを使い始める前に、いくつかの前提条件を確認しておく必要があります。この確認を怠ると、インストールしたはずなのに動かない、という状況に陥りやすいです。一つずつ確認していきましょう。
前提1:PHPがCLIで動くこと
WP-CLIはPHPで書かれたプログラムです。そのため、サーバー上でPHPがコマンドラインから実行できる必要があります。確認方法は簡単で、ターミナルで以下のコマンドを実行します。
php -v
PHPのバージョン情報が表示されれば、PHPはCLIで動作しています。ここで重要な注意点があります。特にレンタルサーバー環境では、「Webサーバー経由で動くPHP」と「コマンドラインで動くPHP」が別物になっていることがあります。
Webサイトを表示する際に使われるPHPはバージョン8.2なのに、CLI用のPHPはバージョン7.4のまま、ということがあり得ます。WP-CLIが要求するPHPバージョンを満たしていないと、エラーが発生します。この問題への対処法は、第2章のサーバー別セクションで詳しく解説します。
前提2:WordPressの場所が分かっていること
WP-CLIを実行するには、WordPressがインストールされている場所(ディレクトリパス)を知っている必要があります。よくある設置場所のパターンとしては、public_html/(Xserverなど多くのレンタルサーバー)、/var/www/html/(VPSやDockerのデフォルト)、htdocs/(一部のサーバー)などがあります。
WordPressの場所がわからない場合は、wp-config.phpファイルを探すのが確実です。このファイルはWordPressのルートディレクトリに必ず存在するため、見つかればそこがWordPressの場所です。
# ホームディレクトリ配下を探す例
find ~ -maxdepth 4 -name wp-config.php 2>/dev/null
このコマンドは、ホームディレクトリから4階層までの深さでwp-config.phpを検索します。見つかったパスの親ディレクトリがWordPressの場所です。
前提3:権限(ファイルを書けるか)
WP-CLIでプラグインやテーマの更新を行うと、WordPressのファイルを書き換えます。ファイルの所有者やパーミッションが適切でないと、更新が失敗したり、更新後にファイルの所有者が変わってしまったりする問題が発生します。
まずは現在のファイル状況を確認してみましょう。
ls -la
このコマンドで、ファイルやディレクトリの所有者・グループ・パーミッションが表示されます。理想的には、WP-CLIを実行するユーザーと、WordPressファイルの所有者が同じであることです。異なる場合は、sudoを使う、所有者を変更する、などの対応が必要になることがあります。
権限の問題は環境によって対処法が異なるため、深入りはしませんが、「更新が失敗する」「パーミッションエラーが出る」という場合は、まずファイルの所有者を確認することを覚えておいてください。
インストール(Phar推奨)と動作確認
WP-CLIのインストール方法はいくつかありますが、最もシンプルで環境による差が少ないのがPhar(ファー)ファイルを使った方法です。Pharとは、PHPアプリケーションを1つのファイルにパッケージしたもので、ダウンロードして実行権限を付けるだけで使えるようになります。
ここでは、sudoが使える環境(VPSや自宅サーバーなど)と、使えない環境(レンタルサーバーなど)の両方の手順を解説します。
インストール(sudoが使える環境)
sudoが使える環境では、WP-CLIをシステム全体で使えるように/usr/local/binに配置するのが一般的です。以下のコマンドを順番に実行してください。
# WP-CLIのPharファイルをダウンロード
curl -O https://raw.githubusercontent.com/wp-cli/builds/gh-pages/phar/wp-cli.phar
# 動作確認(この時点ではphpコマンドで実行)
php wp-cli.phar --info
# 実行権限を付与
chmod +x wp-cli.phar
# システムで使えるように移動(sudoが必要)
sudo mv wp-cli.phar /usr/local/bin/wp
# wpコマンドとして動作確認
wp --info
最後のwp --infoでバージョン情報やPHP情報が表示されれば、インストール完了です。これ以降は、どのディレクトリからでもwpコマンドが使えるようになります。
インストール(sudoができない環境:レンタルサーバー向け)
多くのレンタルサーバーではsudoが使えません。その場合は、自分のホームディレクトリ内にWP-CLIを配置して使います。~/binディレクトリを作成し、そこにPATHを通す方法が一般的です。
# ~/bin ディレクトリを作成
mkdir -p ~/bin
cd ~/bin
# WP-CLIのPharファイルをダウンロード
curl -O https://raw.githubusercontent.com/wp-cli/builds/gh-pages/phar/wp-cli.phar
# 実行権限を付与
chmod +x wp-cli.phar
# wpという名前に変更
mv wp-cli.phar wp
# PATHに ~/bin を追加(bashの場合)
echo 'export PATH="$HOME/bin:$PATH"' >> ~/.bashrc
source ~/.bashrc
# 動作確認
wp --info
~/.bashrcにPATH設定を追加することで、次回以降のSSH接続時もwpコマンドが使えるようになります。zshを使っている場合は~/.bashrcの代わりに~/.zshrcに追加してください。
動作確認(まずはこれだけ)
インストールが完了したら、まず動作確認を行いましょう。最初に、WP-CLI自体が正常に動作しているか確認します。
wp --info
このコマンドで、WP-CLIのバージョン、PHPのバージョン、PHP実行ファイルのパス、php.iniのパスなどが表示されます。ここで表示されるPHPのバージョンが、期待するものと一致しているか確認してください。
次に、WordPressのディレクトリに移動して、WordPressを認識できているか確認します。
# WordPressのディレクトリに移動
cd /path/to/wordpress
# WordPressのバージョンを確認
wp core version
# プラグイン一覧を表示
wp plugin list
これらのコマンドが正常に実行され、WordPressのバージョン番号やプラグイン一覧が表示されれば、WP-CLIのセットアップは完了です。もしwp core versionでエラーが発生する場合は、ほぼ--pathの指定の問題か、CLIのPHPバージョンの問題です。エラーメッセージをよく読んで対処してください。
WP-CLIの”型”:コマンドの読み方・ヘルプの使い方
WP-CLIのコマンドは、一貫した形式で構成されています。この「型」を理解すると、新しいコマンドを覚える際もスムーズに習得できます。また、WP-CLIには非常に充実したヘルプ機能があり、これを使いこなすことで、マニュアルを探し回る必要がなくなります。
コマンドの基本形式
WP-CLIのコマンドは、基本的に以下の形式で構成されています。
wp <カテゴリ> <操作> [引数] [--オプション]
カテゴリは操作対象を表し、plugin(プラグイン)、theme(テーマ)、core(WordPress本体)、user(ユーザー)、db(データベース)などがあります。操作は何をするかを表し、list(一覧表示)、install(インストール)、update(更新)、delete(削除)などがあります。
具体例を見てみましょう。
# プラグインをインストールして有効化する例
wp plugin install contact-form-7 --activate
このコマンドを分解すると、pluginがカテゴリ(プラグインに対する操作)、installが操作(インストールする)、contact-form-7が引数(インストールするプラグインのslug)、--activateがオプション(インストール後に有効化も行う)となります。
この形式を理解していると、「テーマを更新したい」ならwp theme update、「ユーザーを作成したい」ならwp user createというように、直感的にコマンドを組み立てられるようになります。
ヘルプが最強の辞書(初心者はここに全部ある)
WP-CLIのヘルプ機能は非常に充実しており、コマンドの使い方、引数、オプション、実行例までが網羅されています。ブラウザでドキュメントを探すよりも、ターミナルでヘルプを見た方が早いことが多いです。
# 全体のヘルプ(利用可能なカテゴリ一覧)
wp help
# 特定カテゴリのヘルプ(pluginで使える操作一覧)
wp help plugin
# 特定コマンドの詳細ヘルプ(plugin installの使い方)
wp help plugin install
wp help plugin installを実行すると、このコマンドの説明、使用できる引数、オプション一覧、そして具体的な実行例まで表示されます。「このオプションは何だっけ?」「こういうことはできる?」という疑問は、ヘルプを見ればほとんど解決します。
ヘルプの情報量は多いですが、よく見る部分は限られています。特に「EXAMPLES」セクションは、実際の使用例がそのままコピペできる形で載っているので、最初はここを参考にするのがおすすめです。
必須級のグローバルオプション(–path/–url/–skip-plugins など)
WP-CLIには「グローバルオプション」と呼ばれる、どのコマンドにも共通で使えるオプションがあります。これらを適切に使いこなすことで、運用の安定性が大幅に向上します。ここでは、特に重要な4つのオプションを詳しく解説します。
–path=<path>(WordPressの場所を指定)
先ほども触れましたが、--pathオプションはWordPressのインストールディレクトリを明示的に指定します。このオプションを付けることで、現在のディレクトリがどこであっても、指定したWordPressに対してコマンドを実行できます。
# どこからでも指定したWordPressに対して実行できる
wp --path=/var/www/html plugin list
このオプションは、特にcronジョブやシェルスクリプトから WP-CLIを実行する場合に重要です。スクリプト実行時のカレントディレクトリは必ずしもWordPressディレクトリではないため、--pathを毎回指定する習慣をつけておくと、「実行場所を間違えた」という事故を防げます。
複数のWordPressサイトを管理している場合も、--pathを明示することで、どのサイトに対して操作しているかが明確になります。これは運用の安全性を高める上で非常に重要なポイントです。
–url=<url>(どのサイトとして動かすか)
--urlオプションは、特定のURLのサイトとしてWP-CLIを実行します。単一サイトの場合はあまり意識する必要がありませんが、マルチサイト環境では必須のオプションです。
# 特定のサイトに対して操作
wp --url=https://example.com option get home
マルチサイト環境では、1つのWordPressインストールに複数のサイトが含まれています。--urlを指定しないと、メインサイトに対して操作が行われるため、サブサイトを操作したい場合は必ず--urlでサイトURLを指定する必要があります。
マルチサイトの詳細な操作方法は第2章で詳しく解説しますが、まずは「マルチサイトでは--urlが重要」ということを覚えておいてください。
–skip-plugins / –skip-themes(障害対応の必殺技)
これらのオプションは、WP-CLI実行時にプラグインやテーマの読み込みをスキップします。通常、WP-CLIはWordPressの全機能を読み込んで実行しますが、問題のあるプラグインやテーマがあると、WP-CLI自体も巻き込まれてエラーになることがあります。
# プラグインとテーマを読み込まずに実行
wp --skip-plugins --skip-themes core version
このオプションは、障害対応時の「切り札」として覚えておくと非常に心強いです。管理画面が表示されない、WP-CLIも普通に実行するとエラーになる、という状況でも、--skip-plugins --skip-themesを付けることで、最小構成でWordPressを起動できます。
この状態でプラグイン一覧を確認し、怪しいプラグインを無効化する、という手順で復旧できることがあります。覚えておいて損はないオプションです。
–debug(何が起きているか見たい時)
--debugオプションを付けると、WP-CLIの実行中に詳細なデバッグ情報が出力されます。通常は見えない内部処理のログが表示されるため、「なぜかうまく動かない」という時の原因調査に役立ちます。
# デバッグ情報を表示しながら実行
wp --debug plugin list
出力されるログは量が多いですが、エラーが発生している箇所や、どのファイルで問題が起きているかなどの情報が含まれています。普段は必要ありませんが、トラブルシューティング時に覚えておくと便利です。
まず覚える10コマンド(これだけで運用がラクになる)
WP-CLIには数百のコマンドがありますが、日常の運用で頻繁に使うものは限られています。ここでは、初心者から中級者が「これだけ覚えれば日常運用が劇的にラクになる」という厳選10コマンドをご紹介します。まずはこれらをマスターして、徐々にレパートリーを広げていってください。
1) 情報確認系
最も基本的なコマンドとして、WP-CLIとWordPressの情報を確認するコマンドがあります。これらは、何か作業を始める前の状態確認や、トラブルシューティングの第一歩として使います。
# WP-CLI自体の情報(PHPバージョン等も確認できる)
wp --info
# WordPressのバージョン確認
wp core version
2) プラグイン管理系
プラグインの管理は、WP-CLIの中でも最も使用頻度が高い操作の一つです。一覧表示、更新可能なプラグインの確認、一括更新の3つを覚えておけば、プラグイン管理はほぼカバーできます。
# プラグイン一覧を表示
wp plugin list
# 更新可能なプラグインだけを表示
wp plugin list --update=available
# 全プラグインを一括更新
wp plugin update --all
3) テーマ管理系
テーマの管理もプラグインと同様の形式で操作できます。使用していないテーマも更新しておくことはセキュリティ上重要なので、定期的な更新を心がけてください。
# テーマ一覧を表示
wp theme list
# 全テーマを一括更新
wp theme update --all
4) キャッシュ・リライトルール系
キャッシュのクリアとリライトルールの再生成は、「何か変更したけど反映されない」という時の定番対処法です。この2つを覚えておくと、多くの「反映されない問題」が解決します。
# オブジェクトキャッシュをクリア
wp cache flush
# リライトルールを再生成
wp rewrite flush
5) DBバックアップ(作業前の儀式)
これは最も重要なコマンドと言っても過言ではありません。WP-CLIで何か重要な操作(更新、置換など)を行う前には、必ずデータベースのバックアップを取得してください。
# 日時付きのファイル名でDBをエクスポート
wp db export backup-$(date +%F-%H%M).sql
$(date +%F-%H%M)の部分は、実行時の日時に置き換わります。例えばbackup-2024-01-15-1430.sqlのようなファイル名になります。これにより、いつのバックアップかが一目でわかり、複数のバックアップがあっても混乱しません。
WP-CLIは強力なツールですが、「Undo(元に戻す)」機能がありません。一度実行した操作は取り消せないため、データベースのバックアップは本当に大切です。「作業前にはDBバックアップ」を習慣にしてください。
安全運用の基本:バックアップ・メンテ・ログ
WP-CLIを安心して使い続けるためには、いくつかの「型」を固定しておくことが重要です。毎回同じ手順を踏むことで、うっかりミスを防ぎ、万が一の際にも迅速に復旧できます。ここでは、安全運用のための3つの基本を解説します。
1) 何かする前にDBをexport(作業前の儀式)
更新、置換、ユーザー操作など、データベースに変更を加える可能性のある操作の前には、必ずバックアップを取得してください。これは「作業前の儀式」として習慣化することをおすすめします。
# 作業前にバックアップを取得
wp db export before-$(date +%F-%H%M).sql
バックアップファイルの命名規則を決めておくと、後から探しやすくなります。before-作業内容-日時.sqlのような形式がおすすめです。例えば、before-plugin-update-2024-01-15-1430.sqlのようにすれば、何の作業前のバックアップかが明確です。
2) メンテナンスモードを使う(更新時)
プラグインやテーマ、WordPress本体の更新中にユーザーがサイトにアクセスすると、表示崩れやデータベースの不整合が発生する可能性があります。短時間の更新作業でも、メンテナンスモードをONにしてから行うと安全です。
# メンテナンスモードをON
wp maintenance-mode activate
# ここで更新作業を実行
wp plugin update --all
wp theme update --all
wp core update
# メンテナンスモードをOFF
wp maintenance-mode deactivate
メンテナンスモード中は、一般ユーザーには「現在メンテナンス中です」というメッセージが表示されます。管理者はログイン状態であれば通常通りサイトにアクセスできます。作業完了後は必ずメンテナンスモードをOFFにすることを忘れないでください。
3) 作業ログを残す(最低でも履歴をメモ)
実行したコマンドと結果を記録しておくことは、運用において非常に重要です。最低限、以下の情報を残しておくことをおすすめします。
記録すべき情報は、実行したコマンド(そのままコピペできる形式で)、実行した日時、結果(成功/失敗、エラーメッセージがあればその内容)、そして作業者(複数人で運用している場合)です。
これだけの記録があれば、何か問題が発生した際に「いつ、誰が、何をしたか」が追跡でき、復旧作業がスムーズに進みます。特に複数人でサイトを運用している場合、この記録が「最大の保険」になります。
ログの残し方は、テキストファイルに追記していく方法でも、Slackなどのチャットツールに投稿する方法でも構いません。重要なのは「残す習慣」を作ることです。
“困ったらここ”:よくあるエラーと最短解決
WP-CLIを使い始めると、いくつかの典型的なエラーに遭遇することがあります。ここでは、よくあるエラーとその解決方法をまとめます。エラーに遭遇した際は、まずこのセクションを参照してください。
Error: This does not seem to be a WordPress installation.
最も頻繁に遭遇するエラーです。このエラーは、WP-CLIがWordPressの設定ファイル(wp-config.php)を見つけられなかった時に発生します。
原因:WordPressがインストールされているディレクトリで実行していない、または--pathオプションの指定が間違っている。
対策:--pathオプションで正しいWordPressディレクトリを指定します。
# --pathでWordPressの場所を明示的に指定
wp --path=/path/to/wordpress core version
それでも解決しない場合は、指定したパスに本当にwp-config.phpが存在するか確認してください。パスのタイプミスが原因であることも多いです。
PHP関連で失敗する(CLIのPHPが違う)
特にレンタルサーバー環境で発生しやすいエラーです。Webサーバー経由で動くPHPと、コマンドラインで動くPHPが別物になっていることが原因です。
原因:CLI用のPHPがWebサーバー用とは異なるバージョン、または古いバージョンになっている。
対策:まず現状を確認します。
# CLIのPHPバージョンを確認
php -v
# PHPの実行ファイルのパスを確認
which php
# WP-CLIが使っているPHP情報を確認
wp --info
サーバー別の具体的な解決方法(別バージョンのPHPへのパスを指定する方法など)は、第2章で詳しく解説します。
プラグインの致命的エラーでWP-CLIも巻き込まれる
問題のあるプラグインがあると、WP-CLI実行時にもそのプラグインが読み込まれ、WP-CLIまでエラーになることがあります。
対策:--skip-plugins --skip-themesオプションで、プラグインとテーマを読み込まずに実行します。
# 最小構成でプラグイン一覧を表示
wp --skip-plugins --skip-themes plugin list
# 問題のプラグインを無効化
wp --skip-plugins --skip-themes plugin deactivate 問題のプラグインslug
この方法で問題のプラグインを特定し、無効化することで、サイトを復旧できることが多いです。どのプラグインが原因かわからない場合は、wp plugin deactivate --allで全プラグインを無効化し、一つずつ有効化して原因を特定する方法もあります。
次章の予告(実戦編へ)
第1章では、WP-CLIの基礎となる概念、インストール方法、基本コマンド、安全運用の考え方について解説しました。ここまでの内容を実践すれば、「WP-CLIが動く」「基本コマンドが打てる」状態になっているはずです。
第2章では、この基礎の上に立って、より実践的な内容に踏み込みます。具体的には以下のトピックを、実際のコード例とテンプレートを交えて詳しく解説します。
第2章で扱う内容
サーバー別の注意点では、Xserver、ConoHa、さくらレンタルサーバー、ローカルDocker環境それぞれの特有の問題と解決方法を詳しく解説します。PHPパスの違いや権限の問題など、環境固有のハマりポイントを事前に潰せるようになります。
移行・保守のテンプレートでは、安全なアップデート、ドメイン移行、障害復旧、定期メンテナンスといった頻出シナリオの定型スクリプトを提供します。コピペしてすぐに使えるテンプレートなので、自分の環境に合わせてカスタマイズしてください。
マルチサイト運用では、--networkオプションや--urlオプションを使ったマルチサイト特有の操作方法を、具体例を交えて解説します。サイト一覧の取得から一括操作まで、マルチサイト管理に必要な知識が身につきます。
CI/CD連携では、GitHub Actionsを例に、CIパイプラインでWP-CLIを使う方法を紹介します。自動テストや自動デプロイへの第一歩として、まず「CIでWordPress環境を立ち上げてWP-CLIが動く」最小構成から始めます。
第1章の内容をしっかり理解してから第2章に進むことをおすすめします。基礎が固まっていれば、実践的な内容もスムーズに吸収できるはずです。
WP-CLIは、一度覚えてしまえばWordPress運用の景色が変わる強力なツールです。「難しそう」「怖い」という印象から、「便利」「手放せない」という感覚に変わる日も近いでしょう。ぜひ第2章も読み進めて、WP-CLIを使えるように目指してください。



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